疥癬

この記事をご覧のみなさんは、「疥癬(かいせん)」という皮膚疾患を耳にしたことはありますか。疥癬とは、ヒガンダニが皮膚に寄生して発症する疾患のことをいいます。中でも、高齢者や高齢者の介護にあたる医療・介護関係者に多く発症する傾向があります。こうした仕事に携わっている方は、頭の片隅に留めておくとよいかもしれません。ときには大きな病院で集団感染してしまうことがあるため、注意が必要な疾患の一つです。

 ヒガンダニは、ヒトの皮膚の上を歩き回る、あるいは皮膚の最も外側にある角質層内部に穴を掘って住みついています。その穴のことを疥癬トンネルというのですが、ヒガンダニはその疥癬トンネルに1日あたりおよそ2~3個の卵を産みます。しかし、ヒガンダニは皮膚を離れるとすぐに死滅し、さらに乾燥に極めて弱いため、通常の場合に疥癬が発症することはありません。

 疥癬には、通常疥癬と角化型疥癬の2種類あります。中でも、角化型疥癬は極めて感染力が強いといわれています。なぜなら、ダニは角質の中で増殖しており、さらにその落屑内には多数のヒガンダニが増殖をきたしているためです。疥癬は、感染した後におよそ1か月の潜伏期間を置いてから発症します。虫体数の増加や柱体に対するアレルギーの形成などを経てから発生すると考えられているためです。感染経路には、接触による直接感染と、布団や衣類等を介して感染する間接感染があります。

主訴は、夜間も就寝困難なほどの非常に強い掻痒です。皮膚には、紅斑を伴う丘疹が出現します。腹部、胸部などに左右対称に出現することが多く見られます。特に、疥癬トンネルは手や指などに好発します。こうした症状は疥癬に特徴的なため、皮膚科医の診断材料になりやすいといわれています。しかしながら、湿疹と誤診されることも多いため、診断を確定するためには検査によって虫体や虫卵を発見することが必要です。疥癬を疑う場合には、必ず皮膚科を受診し医師の診断を仰ぐことが必要です。ちなみに、疥癬の検査を実施していない皮膚科もあるため、受診前は事前に確認した方がよいでしょう。

 角化型疥癬は、ステロイド等の投与により免疫が低下している人や、基礎疾患を併発している人、高齢者等に罹患しやすい傾向があります。

 それでは、これから主な治療法を述べたいと思います。医師による診断確定後や、明らかに疥癬と認められる方に対して治療を開始します。保険適用と、保険適用外による2種類の治療方法があります。保険適用内での治療ですが、外用硫黄剤および内服薬が対象となっています。保険適用外では、オイラックス軟膏や安息香酸ベンジル等があり、医師の指示の下で自費診療として治療が行われています。

 治療のポイントですが、外用薬はくまなく塗布することが重要です。皮疹が出現していない部位や、塗り忘れの多い指間部等にも十分塗布しましょう。内服治療の開始後は、1週間後に皮膚科を受診し、虫体や虫卵が残存していないかの再検査を実施します。内服薬では副作用が多く報告されているため、授乳婦・高齢者へは原則投与しないことにしています。内服される際は、必ずかかりつけの皮膚科医へ相談して下さい。

 もし、身近に疥癬に罹患した方がいた場合は、何をすべきでしょうか。通常型疥癬では、一般感染症と同様の予防策をとりましょう。しかしながら、角化型疥癬は先ほども述べた通り感染力が極めて強いため個室隔離が原則です。その他にも、リネン類は消毒する、落屑が残らないように清掃、殺虫剤を噴霧するといった対策をとります。

 以上のように、疥癬は罹患した後も注意を要する疾患です。身近に罹患者がいた場合や、疥癬を疑う場合はすぐに皮膚科を受診しましょう。

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